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薺の言葉はもちろん耳に入っていたが、その横で氷のように固まったまま動かない風香を見ていると、本当に彼女は大丈夫なのかと、そんな不安だけが先走ってしまう。
「そうだ、ひとついい忘れてたけど、時空陣を張った場所には、それ相応の手当てが必要なの。ここは結構妖魔に食い荒らされて、修復できるほどの核は残されてないみたいだから、その妖魔の喰らった魂核の欠片をビーズに変えるしかないわね」
ビーズって、確か薺が闘いで使ってた琥珀色の小さい玉のことかな。でもどうやってそれを取り出せっていうんだ。
「やれやれ、汝は少し見聞きする能力に欠けておるのだな。良いか、一度だけ我が手本を見せよう。器を自ら動かすなど異例の措置だが、汝の身体のバランスと脳波のバランスは、どうにも釣り合いが取れておらぬようだ。」
なかなか言ってくれる。俺は俺なりに全力で立ち向かっているっていうのに。そんなに神が偉いのか。何もできないなんて、言われなくても自分が一番分かってるのに。そんな苛立ちがメラメラと腹の底から湧き上がってくるのを感じた。その次の瞬間だった。俺は、自分の顎の付近にただならぬ違和感を覚えた。それは顎が外れたのとは桁が違う。立っている状態でも顎が地についてしまいそうなほど、口が裂けてしまったのだ。
(な、なにがおきているんだ!?)
この状態では、当然言葉になるはずもなかった。
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