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しかも、それで終わりではなかった。あろうことか、先程まで苦戦を強いられていた妖魔に喰らいつき、奴を貪り始めたのである。
(やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめてくれー!!)
心の中で何度も、何度も、何度も、そう叫び続ける。しかし、その行動が止まることはない。今の俺には、自分の身体を微動足りとも動かすことはできない。気が狂いそうなほど取り乱していた。人の形をしたものに、死骸に、そのままかぶりついたのだ。頭もおかしくはなる。結局、妖魔の姿形がなくなりきるまで、その光景は続いた。心臓の鼓動が、数倍にも、数百倍にも感じた。
ふと薺を振り返る。こんな光景を見ても、彼女は眉一つ動かすことなく、平然と鑑賞していた。嘘だ、こんな事、嘘に決まってる。こんな事を神がするなど、言語道断。許されるはずがない。いくら後悔しても、足掻いても、今行われた事実が消えることはない。ありえない状況を目の当たりにしながら、俺はただ呆然と、そこに立ち尽くしていることしか出来なかった。これが、俺のクロノセイバーとしての、とても華々しいとは言えない苦い幕開けとなった。
第三話 苦境の初陣 完
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