12.卒業

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「もう時間か」  蓮はそう言って静かにソファーから立ち上がった。 「あー! 楽しいティータイムはあっという間だね!」  柚子も残った紅茶を飲み干すと、ゆっくりと伸びをして立ち上がる。 「柚子先輩、蓮先輩……」  二人の名前を呼ぶ声が震えた。  学園に来てから、いつも側にいてくれた。  いつも楽しませてくれて、褒めてくれて、教えてくれて、美味しい物をたくさん食べさせてくれた。優しくて思いやりに溢れた、本当の兄姉みたいな人達だ。  そんな二人が卒業してしまう。四年も会えない。  そう思うと、目頭が熱くなった。 「咲希、そんな顔すんなって。お前らが卒業する時には絶対会いに来るから」 「そだよー! ほら、おいで。ハグしよ、ハグー!」  柚子はそう言うと、咲希をぎゅっと抱き締めた。そして、耳元で囁く。 「鍵は咲希と慧に託すから。お願いね。何かあったら、皆を守ってね」 「はい」 「いい子!」  柚子は咲希の返事に満足げに笑うと、今度は慧達の方を振り返る。 「皆も来る?」 「遠慮します」 「俺もハグは亜実先輩だけで」 「つまんなーい! 亜実! 最後にハグ!」 「は、はい!」  柚子は最後まで皆を笑顔にして。 「ちょっと! 亜実先輩、何で俺より真っ赤なんですか!」 「何やってんだ。柚子、皆待ってるからそろそろ行くぞ……っと、俺もその前に皆の頭一撫でしてこ」  蓮は最後まで皆の頼れるお兄さんをして。    二人は、卒業していった。  
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