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「ねえ」
恋人という関係が始まってから、一年は経っただろうか。
僕はまだ、彼女が好きだ。けど、彼女は僕をどう思っているのだろう。
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
思ったことを、正直に言う。彼女は微笑んで、深呼吸をした。その時、彼女の顔が一瞬曇っていたのに、僕は気がついた。
「じゃあ……愛してる?」
「…………ぁ……」
僕は言葉に詰まった。どうしてかは分からない。
『愛してる』なんて、たったの数文字を言うことは、難しいことじゃない。
でも、僕は何故か言えなかった。ただパクパクと口を開閉させ、喉からヒュッと空気を漏らすことしかできない。
「……やっぱり、私のこと……全然愛していなかったのね」
彼女が寂しげに呟き、俯いた。
「ごめんね、一年も付き合わせちゃって」
「……ぃ……」
僕は『愛してる』と言おうとした。けれども、身体が、心が、それを拒んだ。
頭で言おうとしていても、舌も喉も動かない。
「……。……別れよっか」
彼女は一度逡巡して、僕にそう告げた。
僕はその言葉に驚いて、思わず彼女の手を掴んだ。
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