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今夜は暖かい。
風もないし、星も出ている。しかし車はあまり走っていない。
「今度は私の友達に会ってくれたら嬉しいなぁ。すごく明るくていい子なの」
トモミは言う。
そういえばコンビニを出てからずっと、手を繋いでいた。
離そうと力を抜くと強い力で握り返してくる。
ああ、この子結構めんどくさい子だ。
恐らくトモミが王様だったら
トモミ(王様)「付き合ってくれんかのう?」
→はい
いいえ
という展開でいいえを選んでも
トモミ(王様)「そんなこと言わずに付き合ってはくれんかのう?」
って無限パターンにハマるんだろう。そういう気がする。
「明日は仕事?」
しばらく無言で歩いていたが、突然立ち止まって聞かれた。僕が県庁職員だって嘘、この娘まだ信じてるんだな。
「仕事だよ?最近忙しいんだ。」
あっけらかんと答える。早くこの場を切り上げてマナミちゃんに電話したいんだ。したいんだ。したいんだ!
「そっか、じゃあ今から大事なこと言うからちゃんと聞いててね?」
なんだ?!さっきの鍋パがマルチの勧誘だってバレてたか??
トモミは深呼吸を2回して、息を吐ききると、手を胸にあてて目を瞑った。そして再び目を開くと言った
「もうお気づきかもしれませんが、私はジュンペイ君のことが好きです。彼女になりたいけど、けど!私にはジュンがまぶしすぎて、それは贅沢だと思います。だから、これからもずっといい友達でいてください・・・」
口ではそう言っても、多分僕に逆に告らせようとしてきてるのは伝わった。
以前読んだ今は亡き伝説のホスト、天草シンの自伝に書いてあった『カウンター告白誘いの術』だこれは。
恐らくトモミは僕の告りを待ってると思われる。
僕はクシャらせない程度に笑顔を作って、両手でトモミの肩を持ち、正面を向かせて、左手で頭を軽く引き寄せて胸に彼女の顔を抱いた。
「そんなこと言わないで付き合ってよ」
甘くて黒いエスプレッソみたいに大人の声が二人の間に残った。
僕に抱かれながら、トモミが小さく頷いた。
13年前甘酒を飲んだ。
その成分はとっくの昔に身体から出てるはずなのに、残ったトキメキが熟して、今日トモミをだました。
彼女ができた。
しかし、残念なことに、いま僕が考えてるうちの4割くらいはマナミちゃんのことだ。
キスをした。
ああ、今日は電話できないかも。
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