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120グラムのパスタに海老とトマトのクリームがかかってて、あと海藻サラダとオレンジジュース。それからイチゴのジェラートがついて1000円しないのだから、カズヤの行きつけのイタ飯屋はリーズナブルだと言えるだろう。
大飯ぐらいのアタシには少し量がもの足らない気がするけど、味は良かったしサラダにかかってたドレッシングが何より気に入った。
「美味しかったね、また来よう。」少し上目遣いではにかんで、精一杯自分の中の女の子を表に出してそう言って、ハンドルを握るカズヤを見ると、暗い車の中で街のオレンジの灯りを受ける彼はいつもより少し大人びて見えた。
ごはんを食べながら話していて、夜景を見に行くことになった。この街の北に山があって、そこから臨める夜景をアタシと見たいだなんて、うん、アタシ、カズヤのことなんか信じてないよ。でも嬉しくて、丸坊主にして記者会見開きたいくらいだよ!なんちゃって。
嬉しいのはほんとだよ。カズヤとパスタ食べてて、周りからどういう二人だと思われてるんだろ?アタシ彼女だと思われてるかな?そんな妄想をしながらの晩ごはんは、少しでも上手にスパゲティを巻いて、唇を汚さないように気をつけて、食事というより儀式みたいな感じがした。あー、こんなの何年ぶりだろう。はじめは味なんかわかんないくらい緊張してたのに、小さいひとくちの積み重ねで徐々に溶かされたアタシの味覚は目の前に並ぶセット料理が美味しいものだと伝えてくれた。
お店から出てカズヤの車に乗って、少し話をしてから、さもそれが自然な形であるかのように、左のアタシの左肩にカズヤの左手が添えられて、あとはそう、男が女にするごく一般的な、薄くて長い、月9みたいなキスをした。多分口づけの正常位ってこういう形だとアタシは思う。
窓の外を街の灯りが流れてく。
カズヤがアタシと見たいと言ってくれたのは山の途中の森林公園の駐車場からの夜景だった。地元で生まれ育ったアタシには、もうじきそこに着くということもわかる。
カズヤには他にもオンナがいるんだろう。アタシにはカズヤしかオトコはいないのに。そこに不公平さを感じるけれど、だけどそれでも構わないよ。
おねがい、抱いて。
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