第一章

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その次の日。 眠れるわけもなく、夜が明ける前に私は簡単な荷物だけを持って、家をそっと後にした。 歩きながら、涙は止まってくれなかった。 どうして。 そればかりが頭を過ぎる。 私達は夫婦で、本来なら喜ばれるべき妊娠のはずなのに。 私とあなたが愛し合って授かった赤ちゃんなのに。 克也の中で葛藤があるのも分かってる。 でも要らないなんてそんな言葉間違ってる。 家を出て来たけど行くあてがあるわけではなかった。 今からホテルは受け入れてくれるだろうか。 そんな事を考えながら歩いていると、不意に一人の人物の顔が頭に浮かんだ。 「遊里さん…」 遊里さんの名前を呟くと、屈託なく笑う優しい笑顔が真っ先に思い出される。 かつて荒んでいた克也を包み込み、救ってくれた遊里さんとそのご主人、海斗さん。 度々私もお世話になっていて、よく私達夫婦を夕食に招いてくれていた。 そっとスマホを取り出し時間を確認する。 「…4時か…」 さすがにこの時間は非常識過ぎる。 小さくため息つきつつ私は歩みを進めた。
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