第一章

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泣いてる場合ではない。 私にはしなきゃならないことがまだたくさん残っている。 仕事部屋に戻りパソコンの前に座る。 キーボードの上に指を置くと、また頭の中に言葉が浮かんできた。 弱いままではいられない。 まずは、やるべき事をやる。 「よしっ!!」 気合いを入れて、私はキーボードを叩き出した。 「こんにちはー!!」 お昼過ぎ、予定通り担当の笠井さんが原稿の進捗具合を見に来た。 笑顔で向かい入れ、コーヒーを出しながら私はそっと口を開く。 「あの、笠井さん…お願いがあるんです。」 「え!?めずらしいですね!!なんですか?なんでもいってください!!」 元気な笠井さんの声にクスリとしつつ、姿勢を正して話を切り出した。 「…仕事の量を、調節して欲しいんです。」 「え、あ、やっぱり今の量だときついですか?すいません僕気付かなくて…」 笠井さんの顔が申し訳なさそうに歪むのを見て、慌てて首を振る。 「いえ、そういうわけでは…あの、この話は誰にも…克也にも言わないで欲しいのですが…」 「もちろん秘密は守ります。」 「…私、妊娠したんです。」 意を決して言うと、笠井さんの顔がびっくりしたまま固まり、それが次第に笑顔に変わっていく。
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