第一章

8/12
前へ
/17ページ
次へ
これで、仕事に対する不安はなくなった。 出産までただひたすらに長編を書き続ける。 ある程度ストックさえ作っておけば、出産後育児に専念できる時間もできるだろう。 私の子供時代は、あまり親にかまわれなくて寂しい思いをした。 だからこそ、自分の子供にはそんな思いをさせたくはない。 この子を愛して、慈しんで、一瞬一瞬を大事に育てていきたい。 そっとお腹に触れる。 言いようのない幸福感に満たされ、自然と口元が綻ぶのをおさえきれなかった。 「もうすっかりお母さんの顔ですね。」 笠井さんがそういうのに、笑顔で返す。 「きっと妊娠を知ったら克也さんも大喜びですね!!」 そう言われ、顔が強ばるのを感じた。 喜んで、くれないかもしれない。 このことを言ったら、克也はなんて言うんだろう。 あの優しい笑顔を見せてくれる? それとも・・・・・困った顔をするんだろうか。 「先生・・・・・?」 笠井さんが私を呼ぶ声も耳に入らないほど、私の頭の中は不安でいっぱいだった。 今日、克也は帰ってくるかな? 逃げ出してしまうかもしれない。 自分自身の傷から・・・・・。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1038人が本棚に入れています
本棚に追加