第一章

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カチカチカチカチ・・・・・ 規則的に、時計が時を刻む。 時計は深夜の一時を指していた。 やっぱり・・・・・帰って来ない、か・・・・・。 考えて、自嘲する。 どうして・・・・・どうして逃げるの? あなたは私をたくさん救ってくれた。 愛してくれた。 その強さがあるのに、何故自分の傷から逃げ出すの? 「お願い・・・・・帰ってきてよ・・・。」 呟いた言葉が震える。 「克也っ・・・・・」 名前を呼ぶと同時に、控えめな音でドアの鍵が開く。 それに気づいて、私は玄関へと走り出した。 「楓!?・・・・・起きてたのか・・・。」 一瞬目を見開いた後、克也は気まずそうに視線を逸らす。 「ごめん、疲れてるんだ、話とやらは明日起きてからで良いよね?」 疲れてる。 そう、ずるい言い訳を使う。 いつもの私なら、じゃあ明日、と言っていただろう。 でも今回はそうはいかないのだ。 新しい命はこうしてる間にも確実に育っているのだから。 「克也の子供が欲しいの。」 前置きも何もかもすっ飛ばし、思いを言葉にした。 回りくどい事はもうしない。 自分の気持ちを押し殺すことももうしない。 この気持ちだけは譲れない。 克也の目は、大きく見開かれた。 しばらく言葉を失った後、小さく口を開く。 「また、その話?・・・・・良いじゃない、二人きりでも楽しいでしょ?」 「克也の子供がどうしても欲しいの。二人で育てていきたいの。」 「・・・・・子供はまだ要らないでしょ。」 「じゃあいつならいいの?何年後?」 そう聞くと、克也が靴を脱いで私の横をすり抜けていく。
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