1038人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「克也…!逃げないでよっ…!」
遠ざかる背中に、悲鳴にも似た声を投げかける。
足を止めた克也が、ぎゅっと拳を握り締めるのが見えた。
「…ねぇ…どうしてそんなに、子供の話題を避けるの?ねぇ、どうして…私には何も話してくれないの?」
問いかける声が震える。
ほんとは、何でかなんて分かってる。
でも、克也の言葉で、克也の口から、私は聞きたいのだ。
「私達夫婦でしょう?話してよ…苦しんでることがあるなら。ここでちゃんと向き合わないと私達っ…」
「要らないんだよ!!!!!」
言葉を遮り、克也が怒りを込めた声で叫ぶ。
久しく聞いていなかった怒鳴り声に、体が強張るのを感じた。
「要ら…ない…?」
「要らないんだよ、子供なんて…!」
吐き捨てるように言われた言葉に、目の前が真っ暗になる。
要らない…?
「…今まで二人で楽しくやって来たじゃない。それでいいでしょ?子供がいないほうが楓だって仕事がやりやす…」
「やめて!!!!」
それ以上聞きたくなくて、耳を塞いでその場にへたり込んだ。
「楓…?」
やっと克也がこちらを振り向いたというのに、私はその顔を見上げることもできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!