第一章

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「克也…!逃げないでよっ…!」 遠ざかる背中に、悲鳴にも似た声を投げかける。 足を止めた克也が、ぎゅっと拳を握り締めるのが見えた。 「…ねぇ…どうしてそんなに、子供の話題を避けるの?ねぇ、どうして…私には何も話してくれないの?」 問いかける声が震える。 ほんとは、何でかなんて分かってる。 でも、克也の言葉で、克也の口から、私は聞きたいのだ。 「私達夫婦でしょう?話してよ…苦しんでることがあるなら。ここでちゃんと向き合わないと私達っ…」 「要らないんだよ!!!!!」 言葉を遮り、克也が怒りを込めた声で叫ぶ。 久しく聞いていなかった怒鳴り声に、体が強張るのを感じた。 「要ら…ない…?」 「要らないんだよ、子供なんて…!」 吐き捨てるように言われた言葉に、目の前が真っ暗になる。 要らない…? 「…今まで二人で楽しくやって来たじゃない。それでいいでしょ?子供がいないほうが楓だって仕事がやりやす…」 「やめて!!!!」 それ以上聞きたくなくて、耳を塞いでその場にへたり込んだ。 「楓…?」 やっと克也がこちらを振り向いたというのに、私はその顔を見上げることもできなかった。
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