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聞きたくない。
この子に、聞かせたくない。
そして、克也にそんな言葉をもう言わせたくない。
「楓…?大丈夫か?楓…!」
へたり込む私に駆け寄って、克也が顔を覗き込んでくる。
どうして…こんなに優しい人なのに…
そんなことを言うの?
苦しんでいるならなんで話してくれないの。
「もう…もう良いよ…」
必死に声を出しながら、頬を何かが伝った気がした。
「かえ…」
「もう何も、聞きたくない。」
両耳を強く塞いで背中を丸める。
ごめんね、赤ちゃん。
パパのこんな言葉を聞かせてしまって。
これはパパの本心ではないの。
だからお願い、パパを嫌いにならないで。
克也はそれ以上何も言わなかった。
ただ黙って、私の背中を抱きしめる。
克也の腕の中で…私はそっと覚悟を決めるしかなかった。
克也がなにも話してくれないなら、私にはどうしようもない。
要らないという言葉を繰り返されるのには、耐えられない。
妊娠したことを告げてどんな反応をされるのか、それも…分かりきったことだと思った。
それならもう、道は一つしかないんだ。
パパのぶんも、ママが…愛していくからね…。
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