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その次の日。
眠れるわけもなく、夜が明ける前に私は簡単な荷物だけを持って、家をそっと後にした。
歩きながら、涙は止まってくれなかった。
どうして。
そればかりが頭を過ぎる。
私達は夫婦で、本来なら喜ばれるべき妊娠のはずなのに。
私とあなたが愛し合って授かった赤ちゃんなのに。
克也の中で葛藤があるのも分かってる。
でも要らないなんてそんな言葉間違ってる。
家を出て来たけど行くあてがあるわけではなかった。
今からホテルは受け入れてくれるだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、不意に一人の人物の顔が頭に浮かんだ。
「遊里さん…」
遊里さんの名前を呟くと、屈託なく笑う優しい笑顔が真っ先に思い出される。
かつて荒んでいた克也を包み込み、救ってくれた遊里さんとそのご主人、海斗さん。
度々私もお世話になっていて、よく私達夫婦を夕食に招いてくれていた。
そっとスマホを取り出し時間を確認する。
「…4時か…」
さすがにこの時間は非常識過ぎる。
小さくため息つきつつ私は歩みを進めた。
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