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カタカタカタ…
暗い部屋に、私がパソコンを打つ音だけが響く。
寝室で寝ている克也の邪魔にならないよう気を使いつつ、どんどんと集中力は高まっていった。
今持っている連載小説は2本。
その他に短編が3本。
この頃の私は、スランプ知らずと言ってもいい。
次々と文章が浮かび、頭の中でキャラ達が動き出す。
キーボードを打つ手が止まることはない。
それが何故なのか、私は分かっている。
満たされているのだ。
心も、体も。
このままこんな風に過ごしていきたい。
そう思いながら、こんな毎日を少しだけ変えたい、そう考える自分もいる。
でもそれは、克也の望むことでないことも分かっていた。
私の名前は真崎…改め、雨宮楓。
一応売れっ子小説家としてたくさんの小説を書かせて貰っている。
毎日のように届くファンレターに心をホクホクさせている、そんな単純な女だ。
そして、ベッドの中では結婚3年目になる愛しい旦那様が眠っている。
高身長、容姿端麗、頭脳明晰、おまけに社長でビルを所有しているときては、もはや人間なのか疑いたくなるほどの完璧さだ。
優しいし、甘やかしてくれるし、私の仕事が不規則なので家事も手伝ってくれて文句も言わない。
向かうところ敵なしとはこのことなのだろう。
「かーえで。」
そんなことを考えつつパソコンに向かっていたら、後ろから長い腕が伸びてきて私の体を椅子ごと抱き締める。
「わ、びっくりした!克也、ごめんね、起こしちゃった?」
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