第一章

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「ただいま。」 仕事を終えて家に帰る。 すると、いつもなら駆け寄ってくる楓が玄関に顔を出さなかった。 小説に集中しているのかな、と思いつつ靴を脱いで廊下を進む。 リビングに入ると、楓はソファーに座ってクッションを抱き締めていた。 その目はどこを見つめているのか。 ぼんやりと、ただ壁を眺めている。 クスリと笑いつつ、後ろからそっと近づいていく。 「ストーリーでも考えてる?」 耳元で言うと楓の体が跳ねた。 「きゃ!?」 そして振り返り俺の姿を見つけて、複雑な顔をする。 そんな表情が返ってくるとは思っていなかったので、言葉を失った。 「ご、ごめんなさい、帰ってくるの気付かなかった…。あの、すぐ夜ご飯にするね。」 「楓…?」 立ち上がった背中に恐る恐る声をかける。 楓は一瞬動きを止めてから俺に笑顔を向けた。 貼り付けたような笑顔を。 「ん?」 「……どうしたの?」 「え?なにが?」 楓はあくまでも笑顔を崩さないままキッチンへと歩いていった。 様子がおかしい。 原稿、ダメだったのか? それともスランプか…。 でも、俺が帰ってきて喜ばない楓は初めて見た。 心がざわつく。 一日中愛を交わしたのは3日前の事だ。 今朝は普通だったはずなのに。 首を捻りつつキッチンへ向かうと、楓は規則正しい音をたててキャベツを切っていた。
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