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「葵ぃ、どっちがいい?」
「こっちの青いのが似合うよ」
「ほな、これにする」
映画館を出てからお昼を済ませて、ネクタイを買うために紳士服のお店に来ていた。
「司、待って」
「ん?何?」
ネクタイを持って支払いに行こうとする司の腕をひっぱって止めると、
不思議そうな表情をする司は
私の言葉を聞いてやっと思い出したようだった。
「誕生日のプレゼントにさせて」
「あぁ、そんなん忘れとったし」
「やっぱり。ほな待っとって」
「うん、ありがとう」
今日は3月3日の桃の節句、司の誕生日だった。
司は小さい時からそれがイヤだったらしいけど…。
私にとっては司が生まれて来てくれた特別な大事な日だから、
司にとっても少しでもいい思い出にして欲しかった。
ずっと傍に居られないけど、
せめてこのネクタイを見て思い出して欲しいなって願いを込めて……。
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