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「葵ぃ、ネクタイ曲がってないか見て?」
そんなこと聞かんでも、ちゃんとできてるって解ってるけど、見て欲しくなる。
「うん、曲がってないよ。あ、これって」
「葵から貰った大事なもん。こっちが、もっと大事やけどな」
そう言いながら、葵を腕のなかに閉じ込めて、頬にそっと手を添える。
「司ぁ、嬉しいけど、遅れるよ?,…っ」
いってらっしゃいのキスを貰うために……。
「忘れもん貰ったけん、いってきまぁす!あ、もう1つ忘れもんっ」
「んっ…、もう、司ぁ」
まだ忘れ物があるんって不思議そうにする葵の腰をグイッと引き寄せて、もう一度口付ける。
離れてた間の分も葵から貰うために……。
「あ、司ぁ、これ持って行って?良かったらやけど」
振り返ると、
恥ずかしそうに弁当らしきものをそーっと差し出す葵。
我が儘言った俺のせいで、そんな時間あんまりなかった筈やのに。
そう思ったら、
また葵を抱きしめずには居られなくて、これで終わりって自分に言い聞かして、葵からゆっくり離れた。
「持って行くに決まっとうやろ?アホッ」
「もう、苦しいってぇ。あ、司ぁ、いってらっしゃい!」
めちゃくちゃ嬉しいのに、素っ気なく言って、受け取ることしか出来んかった。
俺が照れた時にするクセで気づいてくれることを願って、部屋を後にした。
不器用な、こんな情けないヤツでごめんなって心のなかで謝りながら……。
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