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「後日でも……」
「その日を最後に会わなくなったじゃないですか」
「ていうかさ、それって」
「もう10年も前の話ですよ。掘り起こさなくてもいいかと思いますけど」
ひとつひとつを掘り下げようとする羽島さんにそう言うと、彼は腕組みをしたまま、また無表情で静止した。
新しい客が入ってきたらしい店内では、こちらの空気はよそに、「いらっしゃいませー」という明るい声が響いている。
「もう昔の話になったから、逆にこうして話してるんだけど」
高圧的な物言いに、
「私はあまり話したくありません」
と返す、大人げない私。自分でもわかっている。
「……ふーん」
羽島さんの細めた目が、可愛げのない女、と言っている気がした。
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