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もう日は落ちて、部屋の静物はそれぞれの輪郭をかろうじて伝えるだけ。
会社とは違う、高校の時とは違う彼だけが、目の前ではっきりと目に映る。
「熱……、唇」
薄く笑ったその顔を見て、ズルイ男だと思った。
私は今、どんな顔をしているんだろう。
先が見えている恋愛。
終わる前提の付き合い。
ああ、また始まるんだ。
一番にはなれない両想いが。
バカだな……私。
こうやってまたバカな女を繰り返す。
救いようがないけれど、抗えない。
抱き締められたことで伝わる私よりも低い体温、懐かしい彼の匂い。
棚に置かれ、暗がりの中で白く浮き上がるコンビニ袋をぼんやりと目に映し、私は彼の肩にゆっくりと顔をうずめた。
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