≪10年前≫

29/40

5126人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
5時半。 帰り支度を終えた私は、玄関で靴を履き、「おじゃましました」と羽島さんにペコリとお辞儀をする。 顔を上げると、一段高い位置の羽島さんが、無表情で腕組みをしながら玄関の壁に寄りかかっている。 「……?」 そのまま動かないので、「じゃあ」と言ってドアノブに手をかけると、 「……送るよ」 と、羽島さんが言ってきた。 「大丈夫だよ。だって、クラス会夕方からだって言ってたし、行かなかったとしても、家族で卒業おめでとう会とかあるでしょ」 私は、パーにした両手をブンブンと振る。 「親は遅くなるって言ってたけど」 その時、羽島さんのケータイが、ズボンの後ろのポケットで音を響かせた。 「あ、私もう出るから、電話出ていいよ」 「いや、メール」 ケータイを見た羽島さんは、その文面を読んで、またポケットにしまう。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5126人が本棚に入れています
本棚に追加