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「ホントに私、ひとりで帰れるよ。それに、ほら、羽島さん恥ずかしがり屋さんなのに、駅で知り合いに会っちゃうかもしれないし」
電車で話さない約束のことをそう決めつけて言うと、羽島さんはほんの少し微笑んで、肯定とも否定とも取れない顔をした。
「今日でおしまいだから、いいんだけどね。本当は」
そして、続けて小さく呟かれた声。
「え?」
聞き取れなかったから、思いきり聞き返すと、
「なんでもない」
と言われた。
「じゃあ、気を付けて帰って。着いたらメールして」
頭をなでてくれて、いつもより私に甘い気がする羽島さんに、
「うん!」
と、とびきりの笑顔で手を振り、「バイバイ! またね」と言って玄関を出る。
ドアが閉まる音を背中で聞き、私は気を緩めたらだらしなくにやけてしまう頬を片手で押さえながら、駅へと歩き出した。
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