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乗降口のドアが閉まるのを、私はまるでテレビでも見ているかのような感覚で見た。
発車し、また大きな風を伴いながら通り過ぎていく電車。
いまだ、一歩も動けない私。
「……」
……あれ? もしかして……。
重くて鈍い痛みが、胸に広がる。
心臓を圧縮されているような息苦しさに、呼吸が乱れる。
「……っ」
もしかして私、羽島さんに騙さ……。
パンッ、と私は自分の両手で両頬を叩いた。
自分でやっときながら、予想以上の痛みに背筋が伸びる。
本人に確かめるまでは、信じないもん!
認めたくない気持ちが、無理やり私を奮い立たせ、踵を返させる。
歩みが早足になり、駅を出るころには駆け足になっていた。
濁った色の空の下、さっき来た道を、涙を出させる暇を与えないように走った。
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