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「もう大丈夫なの? 三浦さん」
出社した小宮さんが、隣の席に腰を下ろしながら私を覗き込む。
「大丈夫です。ご心配かけてすみません」
「あと1日くらい休んじゃえばよかったのに」
「ハハ」
熱が出て早退して、その次の日は丸1日休ませてもらった。
厳密にいうと、羽島さんに休めと言われ、自動的に休みになったんだけれど。
「あ、おはようございます、課長」
「おはよーございます」
フロアに入ってきた羽島さんが、首の後ろに手を置きながら自分の席に座る。
私は立ち上がり、
「おはようございます。昨日は休んですみませんでした」
と、自然に頭を下げた。
「治ったの?」
「はい。もう大丈夫です」
「そう。じゃあ、さっそくだけど、今日の仕事。これとこれ、入力お願い」
「はい」
他人行儀に書類を受け取る。
偶然、微かにあたった指先。
私は意識の揺れを気取られないようわざとゆっくり瞬きをし、席に戻った。
互いに目は合わさなかった。
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