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「あなたね、寝言でもスキスキうるさかったんだよ、10年前」
「へー。寝言なら覚えているわけないですね」
棒読みで答えると、彼の手が私の頭に乗っかってきて、包み込むように優しく、でもクシャッとされる。
「あとさ、髪、前みたいに伸ば……」
「嫌です」
羽島さんは、当時の私の欠片でも探しているのだろうか。
三浦菜乃香じゃなくて、当時のカナともう一度交際したいと思っているのかもしれない。
「あの頃の私はもういませんよ?」
「いませんね」
羽島さんが体を半分起こし、私を見下ろす体勢で手をつく。
くせっ毛のように施したパーマの髪を伝い、毛先に水滴が玉を作っている。
無駄に色気があって腹が立つ。
私はその一点を見つめながら、緊張を逃がそうと努めた。
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