≪現在≫

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ずるい。 こうやって、私を思い上がらせる。 私の気持ちを上げたり下げたり、コントローラーでも持っているかのように、いとも簡単にかき乱す。 視線を合わせたまま、羽島さんの顔がゆっくりと近づいてきた。 私はそれをかわすように、顔を斜めに俯かせる。 「……おい」 「起き抜けのキスは好きじゃないんで」 「ディープじゃないっての」 そう言って、私の顔を追うように傾けた顔で、唇と唇を微かに触れ合わせる羽島さん。 互いにゆっくり目を開けて離れると、数秒沈黙が流れた。 連休初日の朝9時半。 もうすでに、一日分の心を使ってしまったかのような気分。 「帰ります」 「は? 今日休みだろ」 「休みですけど、何するんですか?」 「何って……。ここでゆっくりしてもいいし、どっかに出かけても」 「実家に帰ります」 「おい、聞いてから言うな」
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