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「……なにそれ。聞いてない」
「言ってないもん」
平然とそう言ってのけるヤゴ。
また、大きな白い息の塊を、ぼわんと空中に吐き出した。
「なんで教えてくれなかったの?」
「おまえ、着拒して、電車通をバス通に変えてまで避けてた相手に、会いたかったの?」
「……」
「あ、カチ子来た。おせーよバカ。社長か、お前は」
ヤゴがベンチから立ち上がって、鳥居の方から小走りで近付いてくるカッチンに嫌味を投げる。
……そうか。羽島さん、あの日、家にまで来たんだ。
あの日……、誕生日の日……。
約束した……あの……。
「カナ、おまたせ! 遅くなってごめん!」
いつの間にか目の前まで来ていたカッチンに、私は我に返って立ち上がる。
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