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「どうせ明後日仕事始めなんだから、会えますよ」
『その冗談面白くない。そんなに来たくないんだったら、車でそっちに迎えに』
「バカですか? 動かないで待っててください」
『了解』
そう言うや否やプツリと切られたケータイに、私は呆気にとられた。
私としたことが、上手く乗せられてしまった。
「……」
視界の隅、窓際の棚で、見覚えのある困った顔のクマのぬいぐるみがこちらを見ている。
お母さんが私の部屋の押入れを勝手に整理して、勝手に出してきて飾ったんだろう。
私は溜め息をつきつつ、短い前髪をクシャッと握る。
こうやって流されて、まんまと会えるのが嬉しい気持ちにさせられて、会ったら会ったで触れられたら抗えなくなって……。
そして、そのループを理解しつつ、家を出る支度をいそいそと始める私。
バカだなー、と思いながら、おろしたてのワンピースに袖を通し、コートを羽織った。
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