≪現在≫

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受け取ったときにほんの少し触れた指先。 その温もりに心は過敏に反応し、なぜか眩暈すら覚えた。 羽島さんに触れられた記憶が、まるで条件反射みたいに私の熱を上げ、涙腺を刺激させる。 そのせいで私は、ペットボトルをぎゅっと握って俯いたまま、何も言えなくなった。 「……ここでするの? 話。この関係を続けたくないって」 「え?」 さらっと言われた言葉に、私は俯いた顔を上げ、彼を見る。 「そういう顔してる。それに、話がある、ってそれ系しか浮かばないんだけど」 「……」 コートのポケットからカチャリと音をさせて鍵を取り出す羽島さん。 私の手のひらにそれを乗せ、 「今日自分の車で来てるから、乗って待ってて。残業せずにすぐ上がる」 と、抑えたトーンで言った。 そのまま、羽島さんは「じゃ、後で」と言ってフロアへ戻って行った。 私は羽島さんの車の鍵をぎゅっと握りしめて、その後ろ姿を見送った。        
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