≪現在≫

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大人になって想いを告げても、関係を持っても、ずっと焦燥感に苛まれていた。 体を重ねても心を委ねられていない歯がゆさに、行き場のない空しさを持て余していた。 だから、彼女が泣いた日、初めて見た彼女の大粒の涙とさらけ出された本音と表情に、俺は、懺悔の念に隠れて、ひそかに歓喜した。 過去の別れが誤解だったことに対してではなく、純粋に、カナが感情を表に出してぶつけてくれたことが嬉しかった。 最低だけれど、彼女の笑顔と同じくらい、彼女の涙も見たかったのだと、その時初めて気がついた。
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