第3楽章 #2

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何か、大切なものが、 掌からこぼれてしまった。 穢れた自分を、 透き通るような政宗だけが、 浄化できたのに。 八重の救いは、 政宗にしかないと、 思っていたから。 本心を取り出す時だけは、 “八重”、と名乗る。 もう、失くした名前。 昔に、戻る時だけの名前。 そう、まだ幼くて。 親の愛は永遠で、 世界は美しいと、思っていた頃。 上手くいかない現実を、 呪うのも、苦しむのも。 昇華できたような気持ちになって、見詰められるのも。 ここだけでいい。 政宗の無事を、八重は祈った。
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