第1章

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「お待ちしてました」  その人はわたしが父と一緒にここへ通い始めた時から、ずっとわたしたちを出迎えてきた人だった。 「合田さん、久し振り」  わたしが笑顔で挨拶すると、合田さんもほんのわずかながら微笑んでくれた。  合田さんは父と同い年ぐらいだろう。いかにもソレという外見だけど、笑うと目が小さくなって可愛い顔になる。  わたしと父は車を降りた。父が車のキーを合田さんに渡すと、合田さんは近くにいた若い男の一人にそのキーを渡した。その人が近くの駐車場へと車を動かしてくれるのだろう。 「こちらへ」  合田さんは礼儀正しい人だ。もう何度も来ているというのに、自分が前に立って案内してくれる。  わたしたちはビルの中に入った。後ろを若い男が数人付いてくる。でも決して近づくことはなく、ある程度距離を置いて。彼らがわたしたちを見る目には少し恐れるような色が混じっていた。  エレベータの中に入る。入ったのはわたしと父と合田さんだけだ。エレベータの扉が閉まりきるまで、若い男たちは扉の前で頭を下げ続けていた。 「今日の『食材』は?」  扉が閉まってすぐ、父が合田さんに尋ねた。 「イキのいいのが入ってます。ヘタを打ったうちの若いモンですが……」  合田さんの顔が曇った。 「あいつは俺が目をかけていたんでこうなったのが残念です……いえ、そんなこと浦木さんに言ったって仕方がありませんね。あいつのこと、よろしくお願いします」  合田さんが父に頭を下げた。この人が頭を下げるところなんてめったに見ることができないだろう。合田さんは蒼人会の若頭で、大勢の部下がいるのだから。 「わかった。悔いが残らないよう『料理』させてもらうよ」  父の顔はもう完全に料理人の顔に変わっていた。ありがとうございます、と合田さんが言う。わたしはこういう場面を目にするとき、いつも自分がこんな場所にいていいのだろうかと感じてしまう。父の仕事を手伝うことが、それほどの権利をわたしに与えてくれるのだろうか、と。  エレベータが目的の階に到着した。二十四階。この階に父の仕事場が用意されている。わたしたちがエレベータを出ると、通路には誰もいなかった。でもこれはいつものことだ。父が仕事をする今日だけは、他の誰もこの階に入れないようになっているのだから。
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