第19話 【再会】

18/40
1910人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「…雪菜の話はやめよう」 降り下りる沈黙を振り払って、彼は私に背を向けた。 「え……でもっ、咲菜ちゃんとの約束は…」 「咲菜、そろそろ寝る時間だ。ベッドに入って麻弥に絵本を読んで貰うといい」 タイミングを合わせたように重なった、二人の声。 彼は振り返りもせず、まるで煩わしい物を避ける様に、突っ立つ私をそのままにして少女の元へ歩いて行く。 私は一人霧の中に置き去りにされたような気持ちになって、彼の背中を切なげに見て口を噤む。 「はぁ~い。マーヤ、おやすみなさいだよ。えほんよんで、おやすみなさいだよ」 咲菜ちゃんはテーブルの上にスケッチブックとクレヨンを置いたまま立ち上がり、声を弾ませ私に視線を飛ばす。 「お絵かき道具は部屋に片付けなさい」 先生はこちらに駆けて来ようとする咲菜ちゃんを止め、広げられたスケッチブックに指をさす。 絵本を読んで貰うのが待ちきれないのか、少女は慌ててクレヨンを掻き集めてケースに押し詰めた。 「かたづけた!パパ、おやすみなさいして!」 咲菜ちゃんは元気のいい声で言って、おやすみなさいのハグを求めてソファーに座る父親の膝の上に飛び乗った。 「はい、おやすみ。朝寝坊しないおまじないだ」 彼は甘える愛娘をギュッと抱きしめると、小さな鼻を摘まんでフッと柔らかな笑みを浮かべる。 当たり前に見る、微笑ましい光景。 愛情に満ちた、父親と娘の温かな時間。 ――それなのに、胸が痛むのは何故? 数か月後、私はこの二人の前から姿を消さなければならないから? 家族になる夢が壊されてしまったから? そうだ… どんなに近くに居たって、私は一人蚊帳の外。 ―――じゃあ、雪菜さんは?
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!