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俺の中で、もう終わった事?……
胸に、説明のつかない感情がざわりと音を立てた。
「…そうだよね、うん。何か……ごめんね」
顔を合わせることも無く、音信不通の時間が半年もあれば当然の事なのに。
モテ男の深津さんが、こんなちんちくりんの私に好意を持っていてくれた事自体が奇跡なのに……それに、今は好きな人が別にいるとか、彼女がいるかも知れないのに。
突然と、一人で意識をしていた自意識過剰な自分が恥ずかしくなる。
口を閉ざし、湧き起こる羞恥に捕らわれ目を伏せる私。
「ん?…何がごめんなんだ?」
深津さんはキョトンとして、私の顔を覗き込む。
「…ううん、何でも無い。…そのドクターの家の家政婦の仕事は続けてる。契約が3月末までなの」
慌てて笑顔を貼り付け、陰気な気持ちを流し込むようにフルーツオーレを喉に通す。
「えっ。契約が3月までって……今でも家政婦なのか?」
「へ?今でもって……最初から、ずっと家政婦だけど?」
私と深津さん。沈黙の間、互いの目を見て互いの頭に「?」を浮かべる。
「…数か月前、おまえのアパートの前を通り掛かったんだ。元気でいるのかと思って窓を見たら、カーテンが無くなってて……一緒に暮らしてるんじゃないのか?」
深津さんは声のトーンを落とし、訝しみつつ目を細める。
「…うん。三か月前にアパートを出て住み込み家政婦をしてたんだけど…でも、それももう終わり。もう直ぐ先生の家を出るんだ」
「えっ!?……今まで一緒に住んでたのに、これから家を出るのか?」
眉をひそめ私を見つめる彼。
「うまくいってたんだけどね、…ううん、私はうまくいってると思ってたんだけど…本当は違ってた。
……実は今、部屋を探してる最中なの」
心を欺くように強いて明るい声で言って、自嘲的な笑みを浮かべた。
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