第19話 【再会】

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「そうなんだ……何だ…違ったのか」 深津さんは肩の力を抜く様にして息を吐き、口もとを緩める。 「へ?…違ったって、何が?」 そよぐ風に溶け込む様な、小さな彼の呟きに首を傾げる。 「えっ、…いや。…もしかしたら、一緒に住んでそのまま結婚とか有るんじゃないかと思ってたから」 「……結婚?」 「ああ。だって、あっちは奥さんを亡くして独り者だろ?いつか家政婦が妻になるチャンスだってある訳だし。だけど…さっき、自分だけがうまくいってると思ってたとか…そう言ったよな?何かあったのか?」 地面に重い視線を落としたままの私を心配そうに見て、深津さんが眉間にしわを寄せる。 「…家を出なくたって、どんなに一緒に居たって有り得ないから」 「え……」 「奥さんが亡くなったなんて嘘。本当は別の所に居た。…だから、結婚なんて有り得ないよ。絶対に」 口の中に溜まっていた苦い物でも吐き捨てる様に言って、私は口を歪めた。 いきなりの展開で訳が分からないと、表情で訴える彼。向けられるその視線にすら惨めさを感じて、肩を縮こまらせる。 「…嘘って何だよ。どうして、安藤にそんな嘘をつく必要があるんだ?」 目を背ける様にして俯く私。 彼はそんな私を訝しく見て、低い声を落とした。 「それは…その…」 愛娘のために私を手なずける目的があって…そこに行き着くまでには、お金と体の不埒な交換条件が… 冷えたペットボトルを握る私の手のひらに、気持ちの悪い汗が滲む。
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