第19話 【再会】

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不幸な事故の傷跡が残された事により、我が子の記憶から排除されてしまうなんて… 先生は、何故そんな残酷な事をするの? 彼の考えていることが、ますます分からない…。 雪菜さんの存在をそこに閉じ込めるかのように、常に施錠された彼の書斎。 …もしかして、違うの? あなたの言う「罪」は、鬱病で苦しむ雪菜さんの心を支えきれず。そして、咲菜ちゃんを虐待から守れなかったところにあるんじゃなかったの? …あなたは、まだ何かを隠しているの? 見えない…… 触れられない…… あなたの心に―――― ――――――― 突然と、ふわりとした何かが私の鼻を擽った。 その違和感に驚いて目を開けると、咲菜ちゃんの後頭部が視界に飛び込んで来た。 ベッドに肘をついて体を起こし、枕もとに置いてある目覚まし時計を手に取った。 時計の短い針は、間もなく午前0時を指そうとしている。 …ああ、 咲菜ちゃんを寝かしつけながら、自分も寝ちゃったんだ。 私の顔を擽った少女の長い髪を指でとかし、スースーと寝息を立てるその可愛らしい顔を覗いて微笑んだ。 ベッドから下りた私は部屋を見渡し、本棚の上に置かれた写真の上で視線を止める。 「おやすみなさい。雪菜さん…」 シンと静まり返った空気の中に、消えそうな声を落とした。 咲菜ちゃんを寝かしつけた後に送る、彼女への挨拶。これも、私が半年間続けて来た日課の一つ。 きっと雪菜さんは天国で私たちを見守ってくれていると、疑いもせず幸せの中にどっぷりと浸かっていた数日前。 「……」 写真立ての中で美しく笑う彼女の顔に、病院のベッドで機械に繋がれた彼女の姿を重ねる度、居たたまれない思いが押し寄せる。 彼女への同情と罪悪感と、自分の凄惨さが交錯して心を蝕んで行く。 雪菜さんの笑顔から逃げるようにして部屋の扉を閉め、あかりの灯るリビングに向かった。
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