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『俺は最初からお前の過去を、傷ついた心を利用した。全ては愛する娘のために』
彼が放った無情な言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
『いつかは打ち明けなければいけないと思っていた。…その時は、麻弥の選択を受け入れようと決めていた』
彼の身勝手な言葉が、私の心を蝕んでいく。
『それでも愛している』と、『それでも離したくない』と、情熱を貫き通してくれたのならば、どんなに心が救われただろう。
私の選択を受け入れる……
つまり、私は彼にとって失っても構わない存在なんだ。
私は彼に愛されてなどいなかった。
彼が愛しているのは、愛する妻が残した愛する娘……本当の家族だけ。
私を抱いたのも、娘を守ると言う目的に対する手段に過ぎないんだ。
そこに存在していた筈の愛を否定される事ほど、残酷なものはない。
最初から分かっていたじゃない。
不似合いな夢など見てしまったら、いつかは痛い目に遭うって。
甘い蜜ほど毒になるって。
あの夜に戻ろう……彼に初めて抱かれた、あの夜に。
彼は私を利用した。
そして私も、彼の財力を利用した。
私は家政婦。
彼は雇主。
それ以上でも以下でもない。
彼が私を借金から解放してくれたのは事実。
彼との事情がどうであれ、咲菜ちゃんに対しての愛情は変わらないのも事実。
いっぱい泣いた。
いっぱい考えた。
そして私が出した答え……
仕事を放棄して途中で逃げ出す事はしたくない。このまま咲菜ちゃんを見捨てる訳にはいかない。
高瀬家の家政婦として、咲菜ちゃんの教育係として、最後まで責任を果たさなければならない。
契約期間はあと9か月。
私はあの家を出て、彼の望む【家政婦】をやり遂げてみせる。
それで全て終わりにしよう……
どんなに想っても、どんなに願っても、私の描いた未来はそこに無いのだから――――。
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