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彼の指が溢れ出る熱を絡ませて、私を深い快感へと導いて行く。
「…ああ……っ…先生……っ…」
彼から与えられる悦楽を待ち望んでいた身体が、彼の指を締め抱き、交わす情熱ごと奥へと引き込もうとしている。
もう……
何も考えられない。考えたくない。
このまま先生と繋がりたい……
一つに溶け合って、この欲情に溺れ、苦しみなど忘れ、
貴方と一緒に快感の淵まで堕ちてしまいたい――――
「麻弥……」
名を呼ぶ彼の声が、悲痛な音となり私の耳もとに落ちた。
トク……トク……トク……
―――遠くから、鼓動が聞こえる。
これは、私の心臓の鼓動?
……いいえ、違う。
なら、彼の鼓動?
……違う。
これは小さくて、冷たくて、体温の感じられない……
雪菜さん!?
「……」
突然と閉じていた瞼を開いて、怯えた様に身体を震わせる。
脳裏に焼き付いていた彼女の痛々しい姿が蘇り、私を責め立てる様に脳内を駆け巡る。
彼女が見てる……
私達を見てる……
あの部屋で、あの暗闇で一人……
美しい顔を失い……足を失い……人間としての生きる力を失い……
愛する家族から遠ざけられて、一人あの部屋で―――
雪菜さんが私達を見てる。
ごめんなさい……
ごめんなさい……
目を大きく見開いて、何かに憑りつかれたように天井に視線を置く私。
「……麻弥?」
そこに無い恐怖に怯え、人形の様に身体を固める私の顔を見つめる彼。
「どうした?涙が……」
先生は頬に伝う私の涙を指でなぞり、不安げに眉を寄せる。
……真実なんて知りたくなかった。
だけど私は、真実を知ってしまった。
知ってしまったら、それから目を背けることは出来ない。
…あなたが私に向ける思いが、私のあなたへの想いと交わらないものだとしても、
それでも私は、あなたを愛してる。
愛してるから、あの雪菜さんを裏切ることが出来ない。
あなたの心を蝕んでいる【罪】の償いに、きっと私の存在が邪魔をするから――。
「…ごめんなさい…私……部屋に戻ります」
私に触れる彼の手から逃げる様に体を起こし、目を伏せた。
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