第19話 【再会】

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――――三日後。 「おお~っ。おまえ、今夜はいい飲みっぷりだな~。見てて気持ちいいぞ」 冷えたジョッキを傾け、グビグビとビールを喉に流し込む私を眺めて深津さんが笑う。 「今日はすっごく飲みたい気分なのっ。深津さんも遠慮しないでドンドン行っちゃってよ。今日は深津さんの奢りだからっ!」 「何だよそれ~日本語おかしいだろっ。しかも俺、運転手だから飲めねーし」 「うん、だから私が深津さんの分まで飲んであげる。あっ、カルビ追加していい?」 「おお、好きなだけ食え食え。食って飲みまくれ!お~い、お兄さん!カルビ二人前と牛ホル二人前追加ね。あっ、名古屋コーチンせせりも二人前追加~」 深津さんは店員の男性に向かって大きく手を振り、バイトをしていた頃に聞いていた威勢のいい声を上げて追加オーダーをした。 ここは、今池にある焼き肉の名店。 とは言っても、貧乏状態で名古屋に来た私が焼き肉の名店など知るはずも無く。名古屋メシに詳しい深津さんの一押しと言うこの店に、傷心状態の私を慰めるため送り迎え付きのVIP待遇で招待してくれたのだ。 「ああ~、せせりって最高~。ところでこれ、どこの部分の肉?」 長細くて真ん中が割れてて…変な形だな~。 箸で摘まんだその肉を眺め、首を傾げる私。 「なっ!おまえ、どこの肉か知らんで食ってたのか!?鶏の首周りの筋肉だよ、クビの肉っ」 ブランド鶏名古屋コーチンすら何だかよく知らない私を一喝し、彼は呆れた様に声を吐いた。 「えっ!?首~っ!?可哀想に…可哀想だから、ありがたく頂戴致します!…うんっ、美味い!」 歯応えあるぷりぷりした食感と、コクのある旨みを堪能しながら歓喜の声を上げる。 深津さんはそんな私を見つめ、頬を緩ませる。 「焼き肉でここまで喜んで貰えるなんて、誘った甲斐があった。ドクターの家に住んでたら、焼き肉とかしゃぶしゃぶとか回らない寿司とか、毎日食ってるイメージだけど」 「なにそれ。そんな訳ないじゃ~ん。食事を作るために家政婦の私がいる訳だし。それに…」 「…ん?それに?」 カルビを頬張りながら、私の言葉を待つ深津さん。 「外食も外出も、三人で出掛けるのはなるべく控えてたから。遠方なら良いんだけど、近場は病院関係者に見られるとマズいから…」 私は小皿の上で箸先を止めて、苦笑いを浮かべた。
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