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「これが斯く斯く然々の部分。これが全て。だからね、私は深津さんが思ってくれてるような女じゃ…」
「おいっ。勝手に話終わらせようとすんなよっ。…何だよ、優しくして貰う資格が無いって。そんな資格の有無を誰が決めるんだよ。そう言うもんじゃ無いだろ…気遣うって」
深津さんは私の声を叩き落すように言って、不服そうに眉根を寄せる。
「それに、軽蔑なんてしてない。尻軽女だとも汚いとも当然思って無い。…俺が硬派?誠実?それこそ、俺には人様からそんな評価を貰う資格が無い!」
彼は私の目を見つめながら言葉を連ねると、言い切った後に深いため息を落とした。
口を塞ぐような彼の迫力に押されて、私は彼の姿を見てただ目を丸くする。
俺にはそんな評価を貰う資格が無いって…どう言う意味?
「……」
「借金を抱えた不倫…それ、一人で名古屋に逃げてくるほど辛い過去なんだろ?それに、おまえが金のためだけに体を使うなんて思えない。俺が知ってる安藤は、そんな女じゃない」
口を噤む私を見つめ、彼は芯を貫く様な揺るぎない目をしてきっぱりと言う。
「深津さん…」
突然目の前に降り下りた優しさに困惑し、返す言葉も無くて…
胸がキュッと切ない音を立てた。
「今日は、お互いに過去の打ち明け話か?」
「え…お互いの打ち明け話?」
「安藤が決死の覚悟で話してくれたんだ。俺もそれなりの暴露話をしないとな」
…深津さんの暴露話?
声の準備をするかのように、烏龍茶を喉に流し込む彼。
私は膝に手を置いて、気になる前置きをした彼の次の言葉を待つ。
「…俺の『初めての女』は、8つ年上の女だった。当時の俺は19歳。彼女はIT企業に勤めるキャリアウーマンで、俺の憧れの女性だった」
一呼吸置いて、彼が口を開いた。
「8つも年上の彼女…」…って事は、当時彼女は27歳で…
「…『彼女』じゃないんだ」
「えっ?…」
「俺の恋人じゃない。彼女は俺の兄貴の恋人だった。俺は、兄貴の恋人と関係を続けてた。…そして彼女は、俺と関係を続けたまま兄貴と結婚したんだ」
彼はそう言って、口もとを大きく歪めた。
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