1917人が本棚に入れています
本棚に追加
お兄さんの恋人が深津さんの初めての相手!?しかも、深津さんと関係を持ったまま結婚したって……
「それって、深津さんまで不倫経験者って事!?」
あっちでもこっちでも…
蓋を開ければこの世の中、実は不倫だらけって事か!?
唖然として、自分がしてきた罪の重さを都合よく忘れてしまいそうになる。
「…いや、結婚してからは流石に抱けなかった。…それでも向こうは、兄貴と喧嘩したり淋しい時だけ俺を求めてきた。それに耐えられなくて、俺は実家を出て一人暮らしを始めたんだ」
愕然として瞬きすら忘れる私とは目を合わせず、深津さんはグラスに視線を置いたまま小さな息を落とした。
「お兄さんと喧嘩をしたり淋しい時だけって…、何それ。深津さん、その女性に都合よく利用されて振り回されてただけじゃ……あっ…と、その。……ごめんなさい」
身勝手な話に思わず語気を荒げる私。だが途中まで言って、発した言葉が彼に失礼な言動だったと気づき、しおらしく頭を下げた。
「ははっ、そうそう、安藤の言う通り。仕事は出来るが恋愛に関して超クールな兄貴と違って、図体だけデカくて内面甘っちょろい俺を彼女は利用しただけ。
分かってんのに…馬鹿だよな、俺。彼女を抱く度、それでも愛されてると思い込んでた」
手に入らないものほど美しく見えてしまう……
淋しさに耐えきれず諦めようと自ら手を離せば、また腕を掴まれて。束縛を愛だと信じ、甘い囁きに身を焦がす。
そこにあるものは、愛なんかじゃないのに…。
深津さん―――
あなたの過去も、数年前の私と同じ。
微笑みを浮かべる彼を見つめ、胸がズキッと痛む。
「…家を出てからは、深津さんは彼女を忘れることが出来たの?」
「…彼女から離れた俺は、大学で彼女が出来た。社会人になってからも付き合った女性はいたけど…実家に帰れば彼女がいる。彼女の顔を見るたびに、俺の中に燻る何かが揺れた。二度と彼女に触れるつもりは無くても、彼女の目を見ると何かが疼くんだ。…それがきっと、未練ってやつなんだろうな」
深津さんはばつが悪そうな笑みを浮かべながら、グラスの底で氷と混じり合った残りの烏龍茶を飲み干した。
最初のコメントを投稿しよう!