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「大丈夫だ。杏奈がいる。咲菜の事は心配しなくていい…」
「答えになってないっ。はっきり言ってよ!」
「…家政婦の契約期間は今日で終わりだ。一方的な解雇だ。契約金は返さなくて良い」
彼は私を見据え、迷いの無い口調で言い放った。
叩きつけられた言葉の意味が理解出来ず、呆然と立ち竦む私。
えっ……
契約期間が今日で終わり?
だって、三月末までって話で……解雇?
「…私、家政婦をクビって事?…何を言ってるの…待ってよ…そんな勝手に…冗談でしょ?」
動揺を隠せない私は目を泳がせ、継ぎ接ぎの言葉を並べる口もとには薄っすらと笑みを浮かべる。
「…すまない。引っ越し先が見つかるまではここに居てもらって…」
「待ってっ!私はそんな言葉が欲しいんじゃない!」
彼が落とす静かな声を遮り、縋るように彼の胸に飛び込んだ。
「この家に私は必要じゃ無くなったの?先生は、もう私が要らないの?…本当に先生は……」
…お願い。
今度こそ、本当の声を聞かせて……
溢れ出る涙が喉に詰まって、言葉が出て来ない。
彼の服を掴み、胸に顔を埋め「抱きしめて」と懇願し小さな肩を震わせる。
吐き出すように嗚咽が喉を突く。
「……もう、これ以上は無理だ。」
降り落ちて来たのは、私の心を突き刺すような揺るがない声。
頭上から足先まで衝撃が走り抜け、呼吸が止まった。
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