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…これ以上は、無理?
私は伏せていた顔をゆっくりと上げ、魂の無い人形の様に目を開く。
……それが、あなたの答えなの?
本当に、私達はもう……
悲しみを超えた憤りと絶望感が、体の中に突き上げて来る。
「……てい…」
「……麻弥?」
彼を突き飛ばすかの様に体を離し、その勢いで右手を振り上げる。
「最低っ!あなたは最低な男よっ!」
激しく湧き起こる感情に任せ、彼の頬に向かって振り下ろそうとしたその手のひら。――しかし、彼を見つめ動きを失い、怒りを堪える様に小さく震えだした。
「……」
彼はまるで「気が済むなら殴ってくれ」と言いたげな平静な目をして、覚悟を決めたように唇を閉ざしている。
彼の真っ直ぐな瞳が、私を捕らえる。
……なんて酷い人。なんて狡い人。
突き放す素振りをして、結局は私自身に終止符を打たせるのね。
男の未練…
あなたは幸せだった時間を、触れ合った熱情までも捨ててしまうのね。―――身を焼き尽くす様な、私のこの想いから目を逸らして。
止めどなく溢れる涙は頬を伝い、首筋に流れ落ちる。
「…そうね。もう、高瀬家の人達には付き合いきれない」
全ての感情が絶えた目をして、寄せた波が引いて行く様な弱々しい言葉を落とす。
「…あなたが望むように、私だけを見てくれる誠実な人と幸せになります。…さようなら…先生」
私はくぐもった声を置き、逃げ出すように彼に背を向け家を飛び出した。
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