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灰色の雲がかかった月の光と車のヘッドライトに照らされて、悲痛な思いを振り切るように駆けて行く。
縺れそうな足がアスファルトを踏みしめる度、零れ落ちる無数の涙が夜風にさらわれる。
腫らした瞼を手で擦り、息を切らして歩道を走る私に向けられる好奇な視線。
化粧は涙で剥げ、長い髪は乱れ、今の私はどれだけ痛い女として人の目に映っているのだろう。
だけど、そんな事はどうでもいい。
もう、全てがどうでもいい……。
駐車場に入ると速度を落とし、正面に見える灯りを見つめる。辿り着いたのは、以前バイトをしていたコンビニ。
「……」
肩で息をして、ゆっくりとその光に目を凝らす。
駐車場に止めてあるのは5台の車。その一番左端には深津さんの車がある。
吸い寄せられるようにふらふらとその車の運転席のドアに近づいて、力が抜けて崩れ落ちてしまいそうな体を支えようと背中を付けた。
「……」
「…安藤!?」
しばらく地面に視線を落としたまま地に根を生やしていた私の耳に、驚きに満ちた声が届く。
「深津さん…」
私は項垂れていた頭を上げ、目を皿のようにする彼を見る。
「おい、どうしたんだよおまえっ…帰ってから何かあったのか?」
真っ赤に染まった私の目に気づいたのだろう。深津さんは慌てて駆け寄り、壊れ物を見る様な目をして眉を寄せる。
「…先生の家を出たの。もう、私は要らないって…契約は無効だって…」
「はぁ!?なんでいきなりそんな事に!?…まさかっ、俺と出掛けた事を知って腹を立てて…」
深津さんは強張った顔を大きく歪め、言いかけた言葉を飲み込んだ。
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