赤い、桜

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「桜の下には死体が埋まっているのよ」   ――そう、教えてくれたのは母だった。 「桜はね、死体の養分を吸って綺麗に咲くの。 桜がピンクなのは、その為よ。 元々は白い花なのに、 真っ赤な血液を吸って咲くから、 ピンク色に染まっているの」   父が失踪したあと、そういって話す母は、 倖せそうに笑っていた。 庭の桜が、いままで見たことがないほど、 見事に咲いた年だった。   ――それから俺は。 桜の根元にせっせと死体を埋め続けた。 初めは、交通事故などで死んだ動物の死体。 道を歩くときは目を皿のようにして 地面を見つめ、死んでいる動物を探し続けた。 しかし、埋めても埋めても、 桜はあのときのように、 見事に咲くことはない。 それに俺が見たいのは、 薄桃色の桜ではなく、――真っ赤な、桜。 母の言葉が正しいのならば、 たくさんの血を吸った桜は、 赤く花咲くはずだと思っていた。
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