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「ありがとう」
男はいいながら私に手渡してくれた。そのままパーカーのポケットに押し込んで、私は彼に言う。
「それじゃあ、ね」
送ってこうか?
すぐにそう言われて、私は笑って遠慮をした。扉に手をかけた私に男が慌てて声をかけた。
「よければ、また!」
まさか。まさか。
扉を開けて、忘れかけていた傘を引っ張り出し私は車を降りた。
「ええ、いつか」
絶対に会う気のない返事だなあと自分でも分かる。言葉だけを投げ捨てて、扉を強く閉めた。
足早に歩き出す。
この男も違った。
本当の、私だけのたった一人の特別な人を私は求めている。
我ながら不毛だ。
傘を開く気力もなかった。
両手をパーカーのポケットに入れると、確かに対価のお金があった。
もう二度とするもんかと毎回思うのにこれだから、私はきっと、救われようがないのだと思う。
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