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逃がすまいと思った。
だからハチと愛称をつけた。
「なんだそれ」
笑われたけれども、それでもこの部屋から出ないのは、彼も私に惹かれたのだと思いたい。
いやもしかしたら、若い女に連れ込まれたと浮かれているだけかもしれない。
けれどもどんな安直さでもよかった。私がこの部屋に、この世界に一人ではなくなるのだったらよかった。
「ねえ、ここに、いてよ」
誘ったのは私。
もうこの曲は終わり頃だった。
そろそろ頑固者が、フェンスから降りて空を見上げる頃だ。
「傷つけるかもしれない」
彼が真剣な顔になった。
この曲を知っているのだと、気付いた。
「そんな見た目だけのダイヤのクイーンならひいてない」
私は笑った。
彼も笑ったので、今日から彼は私のハチになった。
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