準備ができるまで

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「もう平気?」 「――……」 ひと呼吸置いたあと、巽くんは笑った。 笑うと目尻が下がる巽くん。 笑顔はそっくりな、ふたり。 「兄さん、いつまでも子供扱いしないでください。 さっきはすみませんでした。 もう、大丈夫です」 する、と先輩の手のひらからチャコールグレーのブレザーが離れていく。 ドアの向こうにその色が消えるまで、先輩はイスの背もたれに顎を預けてずっと見続けていた。 「先輩」 嫉妬してしまいそうなほど整ったその横顔に声をかけ、ふわふわの黒髪にぽん、と手をのせる。 先輩はちらりとその瞳を向けるけれど、頭にのせられた手をどけようとはしなかった。

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