第一章

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第一章

『何がどうしたっていうんだ?』  両腕の肘(ヒジ)から先が、パンパンに張ってきた。その上、両手の指先の感覚が鈍くなったばかりでなく、震えまで出てきた。 『何かの奇病か難病か?』  寒いというわけではなかったが、真夏の暑さを感じている余裕など、まったく無かった。 『?』  それに、手首の内側を探ってみても、喉元に触れてみても、脈がまったく見つからない。その事に気づくと、胸のムカムカ感が、いっそうひどくなる。何と表現したらよいのだろう? 今までに経験した事の無いような不快感。吐き気などは無いのだが…血の気(け)が引いた貧血の時のようでもあるし、意識が遠のきそうな感じもある。 『ついに、来る時が来たのだろうか?』  いつか、循環器系のトラブルで、この心臓が鼓動を止める日が来る事は覚悟していたが…。 『気をしっかり持たないと…』  息苦しさが一段とひどくなり、前のめりに座った姿勢では、大きく息が吸い込めない。マニュアル・シフトの普通トラックの運転席から、おもてに出てみるが…立ち続けてなど、いられそうにない。 『誰かに、救急車を呼んでもらおうか?』  午前中の陽射しの下(もと)、走り出してまだ30分もたっていない、道路左側のコンビニの駐車場。異変をきたして、最初に目についたここに入ったのだが…。 『いったい、どうしたっていうんだ?』  症状は、一段と悪化している。 『このまま死んでしまうのか?』  そんな思いが、頭をよぎる。 『死ぬのが恐い』とは思わなかったが、あまりにも突然だし、まだ早すぎる。心の準備もできていないし、それ以上に、死を迎えるにあたって、何の後始末も終わっていない。だいたい、そんなつもりなど無かったのだから仕方ないが…。 『もたもたしていられない!』  意を決して、シートベルトも締めず、駐車場を出て市内方面へと取って返す。 「がんばれ! がんばれ!」  小声でそう自分に言い聞かせ、時おり左胸をたたきながら、10数分も走っただろうか? 総合病院の救急入口前の駐車帯に車を停め、中に駆け込む。 「ハア! ハア! ハア!」  受付に二人並んで座っている女性に、おとといの晩に作ったばかりの診察券を提示して、荒い息のまましゃがみ込む。 『どうしてこんな事になったんだ?』
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