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「帝?」
緋月が振り返れば、帝はジッと自分を見つめていた。
風邪のせいか、はたまた別の理由なのか、帝の頬は僅かに赤い。
「……――だ」
「?」
つい呆然としていたために、帝の言葉を聞き逃した緋月。
首を傾げれば、帝は恥ずかしそうに目をそらし……
「……行っちゃやだ」
小さな声で呟いた。
「(……ッこいつ……)」
顔はいつもどおりの無表情ながら、実は無意識に煽りまくる帝に緋月の理性も限界だ。
しかし病人に手を出すのはいけないと、我慢できるうちにここを離れようと思ったわけだが……
「……お願い、緋月」
ねだるように名前を呼ばれ、瞼(まぶた)をふせられてしまえば、そんなことはもうどうでもよくなった。
翌日
たっぷりと汗をかいたために風邪が治り、すっかり元通りになった帝に、葵や暁人を含め皆が安堵し、そして悩む。
「で、昨日の会長様は結局なんだったんだ?」
「……さぁ……?」
真実は……
「……っくしッ……」
もはや自業自得と言える形で風邪をうつされた、緋月のみが知る。
the end
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