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「あら勿体ない。
私、これでも人を見る目はあるのよ」
マーサはそう言って夫の股を二度叩いた。
「目というよりは、匂いかしら」
「素直に喜んでおきますよ」
その夜は遅くまで三人で飲み明かした。
シーラスの子ども達はリルが上手に面倒を見て、ある程度で寝たようだった。
翌朝、酒にも朝にも強いフェイスとシーラスは、随分早く起き、トルコー駅に向かった。
例によってオートモービルの爆音と砂埃を、切れるように冷たい冬の朝に吹き上げた。
一時間足らずで駅に付く。
九時の特急であり、まだ少しばかり時間があるので、フェイスは家族と研究室にわずかばかりの土産を買い込んだ。
「おう、これ、持ってけ」
シーラスがフェイスに声を掛ける。
手渡されたのは、葉巻の箱だった。
それも最高級品、ヨースの邸宅で吸ったバナーの葉巻だった。
「いいのか、こんな高級品」
フェイスの手にはなかなか届かない物だ。
だがシーラスは言った。
「俺は金持ちなんだよ」
笑った。
それがやけに悲しげだった。
「そうだな、ありがたくいただくよ」
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